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現在のようなメモリーカードという記録メディアがなかった時代のことである。
僕らは現実でゲームよりも凶悪な悪魔と戦っていた。
復活の呪文‥またの名はパスワードという。
電源を切ってもやめた場所からスタートできる便利な呪文である。
しかし、これをメモるのは容易なことではなく、長時間プレイで疲れきった体には辛いものがあった。
意味を成さない文字の羅列を読み上げ、ときには復唱し、正確に書きとめねばならない。
しかしながら、ブラウン管やゲーム機の解像度の低さが、それを困難なものにしている。
中でも「ぬ」と「め」や「ぷ」と「ぶ」などの違いには苦労させられた。
全神経を集中させて行うこの作業に「慣れ」という言葉は存在しない。
1文字でも間違うものなら「パスワードが違います」という死の宣告を受けることになるのだ。
今までの苦労がすべて水の泡になるという現実。
怒りのあまり我を失い、電源を切らずにカセットを引っこ抜いて本体に叩きつけた人は少なくないだろう。
時は流れ、このシャレにならない事態をさらに悪化させるとんでもないヤツが現れた。
ファミコンのバッテリーバックアップ機能(内臓電池)である。
衝撃や接触不良に弱く、僕らの大切なデータを次々と消していった。
ドラクエ3に代表される「リセットボタンを押しながら電源を切らないとデータが消えます」は、あまりにも有名。
これを忘れ、何日もかけて育てたキャラとデータを一瞬で消してしまう被害者が続出した。
パスワード方式なら以前のものが残っていれば最悪の状況を回避できたが、バックアップはそうもいかない。
消えたら最初からやり直しなのだ。
電源を切る瞬間に気づく、だが、気づいたときにはすでに遅かったりする。
後に残るのは青ざめた顔と張り詰めた空気、そして神にもすがる思い。
そもそも絶対に消えるというわけではなく、バックアップそのものが不安定であった。
これはファミコン本体が内臓電池を想定していない仕様(設計)だったことが原因らしい。
つまり、とんでもないリスクを背負ってゲームをしていたわけだ。
なぜここまでしてバッテリーバックアップを採用しなければならなかったのか?
この背景には各ゲーム雑誌で「もしドラクエ3をパスワード方式にした場合、その長さは800文字ぐらいになる」とのコメントが掲載されたことにほかならない。(1作目は20文字、2作目は最大52文字)
罵声とともにコントローラーを投げつけた青春の日々を懐かしく思い、ここに記す。
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